2011年3月13日日曜日

不当解雇(リストラ)

今日は、不当解雇(リストラ)に触れている判例を紹介します(つづき)。 

(2)上記(1)の検討を踏まえて、以下、被告指摘に係る再雇用拒否理由1及び2の各事実をもって、原告には再雇用就業規則3条(2)所定の「能力」が欠如しているといえるか否かについて、検討することとする。 
ア 原告の編集者としての身体的・技術的能力について
 原告は、昭和48年7月に被告に就職して平成21年3月31日に定年退職するまでの35年以上の間、一貫して編集局に所属し、社会学、宗教学、教育学、文化人類学等の社会科学・人文科学の分野の学術書・教科書又は教養書の編集に携わり、原告が編集を担当して出版された書籍は、200点以上に上っており、その編集者としての職務上の知識や経験は申し分のないことが認められ、原告が当該職務を遂行する上での技術的能力を備えていることは否定できないといえる。加えて、原告は、再雇用希望申請に際し、再雇用就業規則所定の手続に従って、被告に対し、指定医による健康診断書の写しを提出するなどしており、その健康状態等に問題があることをうかがわせるに足りる証拠もないから、原告には、当該職務を遂行する上で備えるべき身体的能力がないともいえない。
イ 再雇用拒否理由1について
(ア)争いのない事実に加えて、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
 被告は、平成10年12月以降、継続的刊行物「講座社会学」全16巻(以下「講座社会学」という。)の刊行を開始した。原告は、その当時、講座社会学の編集者を務めていたところ、講座社会学第3巻「村落と地域」(以下「第3巻」という。)の刊行に当たり、平成17年2月10日に開催された販売会議において、その部数、価格及び印税等の設定についての被告の方針に対して不満を表明し、同月24日ころ、著者らから預かった原稿を所持したまま、編集作業を中止してしまった。
 被告は、同年3月から同年4月にかけて、第3巻の監修者、編者兼著者であるD教授(以下「D教授」という。)との間で、同巻の刊行に向けて、その部数、価格及び印税等について協議し、D教授に対する印税を支払わないことなどの了解を得た上で、合意された条件の下での刊行を急ごうとして担当編集者である原告の了解を求めたが、原告は、D教授に対する印税不払の不当性等を訴えて被告の方針に反対し、一向に編集作業を再開しようとせず、膠着状態のまま約1年が経過した。
 被告は、平成18年4月10日、いよいよ原告から第3巻の原稿を引き上げることを決定し、同年6月上旬から同月中旬にかけて、原告に対し、口頭で原稿を被告に引き渡すよう求めた。それにもかかわらず、原告が原稿を引き渡さないため、被告は、同月23日、原告に対し、原稿の引渡しを求める職務命令書を交付したが、従わないため、同月28日ころ、再度、同趣旨の職務命令書を原告宛に郵送したものの、原告からの応答はなかった。被告は、同年7月24日、原告に対し、通告書を示して原稿の引渡しを求めるとともに、引き渡さない場合には、就業規則に基づき処分することを伝えたが、原告は、それでも原稿を引き渡そうとせず、通告書の受取も拒否した。被告は、同日、同通告書を原告宛に郵送したが、原告からの応答はなかった。そのため、被告は、同月27日ころ、原告を懲戒解雇する意思を固め、同月31日、本件組合に意見聴取したところ、本件組合からは、原告に原稿を返還させることを約束するとともに、懲戒解雇処分とすることの撤回を求められた。
 原告は、同年8月1日、D教授に対し、原稿を預けるとともに、被告に返還することを依頼した。被告は、同月2日にD教授から原稿を入手した上、本件組合からは再度原告を懲戒解雇処分とすることの撤回を求められたため、同月22日、原告に対し、反省文を提出することを条件に懲戒解雇処分とすることを減じ、出勤停止7日間及び減給(基本給の10%)3か月の懲戒処分とする(以下「本件懲戒処分」という。)ことを決定した。
 同月28日、原告が反省文を提出したため、被告は、原告に対し、本件懲戒処分をした。原告は、同処分に不満を感じつつも、これを受け入れて本件懲戒処分に服し、同年9月21日には、E専務理事と共にD教授を訪問して一連の騒動について謝罪した。
 そして、第3巻は、平成19年5月に刊行されるに至った。
(イ)上記(ア)の事実によれば、原告は、被告の従業員としての編集者でありながら、第3巻の刊行に際し、その部数、価格及び印税等の設定についての被告の方針に不満を表明し、特にD教授に対する印税不払の方針についてD教授の了解が得られているにもかかわらず、自らの意見に固執してこれに従わないまま、独断で編集作業を中止して原稿を抱え込み、その後も再三にわたる原稿引渡しの業務命令にも直ちには従わなかったため、原告のかかる態度によって第3巻の刊行が遅延したとして、原告については、一時、懲戒解雇処分が検討されるに至ったものの、本件組合の取り成しのほか、原告が、最終的に被告の業務命令に従って原稿を被告に返還するとともに、不満を抱きつつも反省文を被告に差し入れたことによって、懲戒解雇処分の予定が減じられ、本件懲戒処分に止まり、原告がこれに服した経緯が認められる。
 これによると、確かに、原告は、第3巻の刊行に関する被告の方針に従わずに編集作業を勝手に中止し、平成18年6月23日に原稿引渡しの業務命令が発せられるまでの1年余りの間、原稿を抱え込んだ事実が認められるが、反面、〔1〕原告が被告の方針に従わなかった理由が、原告が、被告の編集者として、被告とD教授との関係悪化を懸念するとともに、被告の出版社としての在り方を自分なりに考えた末、被告に対して、D教授に対する印税不払の方針の問題点を指摘し、抵抗を試みたという側面がなかったわけではなく、その理由がおよそ理解できないわけではないこと、〔2〕被告も、上記原稿引渡しの業務命令を発するまでの1年余りの間、原告による原稿の抱え込みを放置し、結果として、第3巻の刊行に向けての対応が遅れたことは否定できず、そのため、原告としても、その当時、一連の問題の重要性を十分に認識していたのか疑問があること、〔3〕原告は、最終的に本件組合の取り成しに応ずる形で被告の業務命令に従って原稿を被告に引渡した上、被告に求められるがまま、反省文を作成して被告に提出したため、懲戒解雇処分を免れ、本件懲戒処分の限度での懲戒処分を受けてこれに服したこと(被告は、原告が当該反省文を真意に基づかずに作成したことをもって、原告が一連の騒動について反省していないと主張するが、上記(ア)の事実経過に照らせば、被告は、本件懲戒処分に当たって、事態を穏便に収拾するために原告に反省文の提出を求めたものであり、その当時、必ずしも原告の真意を問題としていた訳ではないことがうかがわれるし、仮に、原告が真実反省していなかったとしても、原告は、その当時、被告の指示に従って反省文を自ら作成した上、本件懲戒処分に服しているのであるから、それが、直ちに原告の協調性又は規律性等の欠如を裏付けることにはならない。)、〔4〕原告は、入社以来、本件懲戒処分を受けるまで、被告から何らの懲戒処分を受けたことはないし(人証略)、その他、原告には編集者としての職務を遂行する上で支障を来すほどの深刻な服務規律違反があったことを認めるに足りる証拠もないこと等の諸事情にかんがみれば、再雇用拒否理由1の事実をもって、原告には、その職務を遂行する上で備えるべき身体的・技術的能力を減殺する程度の協調性又は規律性の欠如等が認められるということはできず、再雇用就業規則3条(2)所定の「能力」がないということはできないといわなければならない。
なお、不当解雇(リストラ)について専門家に相談したい方は、不当解雇(リストラ)に強い弁護士に相談してください。また、企業の担当者で、従業員の解雇についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、保険会社との交通事故の示談交渉刑事弁護を要する刑事事件多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題オフィスや店舗の敷金返却(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。