2011年2月3日木曜日

顧問弁護士がかかわりうる判例

今日は、企業の顧問弁護士の業務に係る企業法務の判例を紹介します。

1 本件は,上告人との間で売買契約を締結して土地を買い受けた被上告人が,上告人に対し,上記土地の土壌に,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして上記売買契約締結後に法令に基づく規制の対象となったふっ素が基準値を超えて含まれていたことから,このことが民法570条にいう瑕疵に当たると主張して,瑕疵担保による損害賠償を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1)被上告人は,平成3年3月15日、上告人から,第1審判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を買受けた(以下,この契約を「本件売買契約」という。)。本件土地の土壌には,本件売買契約締結当時からふっ素が含まれていたが,その当時,土壌に含まれるふっ素については,法令に基づく規制の対象となっていなかったし,取引観念上も,ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず,被上告人の担当者もそのような認識を有していなかった。
(2)平成13年3月28日,環境基本法16条1項に基づき,人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準として定められた平成3年8月環境庁告示第46号(土壌の汚染に係る環境基準について)の改正により,土壌に含まれるふっ素についての環境基準が新たに告示された。 
 平成15年2月15日,土壌汚染対策法及び土壌汚染対策法施行令が施行された。同法2条1項は,「特定有害物質」とは,鉛,砒素,トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう旨を定めるところ,ふっ素及びその化合物は,同令1条21号において,同法2条1項に規定する特定有害物質と定められ,上記特定有害物質については,同法(平成21年法律第23号による改正前のもの)5条1項所定の環境省令で定める基準として,土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)18条,別表第2及び第3において,土壌に水を加えた場合に溶出する量に関する基準値(以下「溶出量基準値」という。)及び土壌に含まれる量に関する基準値(以下「含有量基準値」という。)が定められた。そして,土壌汚染対策法の施行に伴い,都民の健康と安全を確保する環境に関する条例(平成12年東京都条例第215号)115条2項に基づき,汚染土壌処理基準として定められた都民の健康と安全を確保する環境に関する条例施行規則(平成13年東京都規則第34号)56条及び別表第12が改正され,同条例2条12号に規定された有害物質であるふっ素及びその化合物に係る汚染土壌処理基準として上記と同一の溶出量基準値及び含有量基準値が定められた。
(3)本件土地につき,上記条例117条2項に基づく土壌の汚染状況の調査が行われた結果,平成17年11月2日ころ,その土壌に上記の溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていることが判明した。
3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の請求を一部認容した。
 居住その他の土地の通常の利用を目的として締結される売買契約の目的物である土地の土壌に,人の健康を損なう危険のある有害物質が上記の危険がないと認められる限度を超えて含まれていないことは,上記土地が通常備えるべき品質,性能に当たるというべきであるから,売買契約の目的物である土地の土壌に含まれていた物質が,売買契約締結当時の取引観念上は有害であると認識されていなかったが,その後,有害であると社会的に認識されたため,新たに法令に基づく規制の対象となった場合であっても,当該物質が上記の限度を超えて上記土地の土壌に含まれていたことは,民法570条にいう瑕疵に当たると解するのが相当である。したがって,本件土地の土壌にふっ素が上記の限度を超えて含まれていたことは,上記瑕疵に当たるというべきである。
4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 売買契約の当事者間において目的物がどのような品質・性能を有することが予定されていたかについては,売買契約締結当時の取引観念をしんしゃくして判断すべきところ,前記事実関係によれば,本件売買契約締結当時,取引観念上,ふっ素が土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されておらず,被上告人の担当者もそのような認識を有していなかったのであり,ふっ素が,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるなどの有害物質として,法令に基づく規制の対象となったのは,本件売買契約締結後であったというのである。そして,本件売買契約の当事者間において,本件土地が備えるべき属性として,その土壌に,ふっ素が含まれていないことや,本件売買契約締結当時に有害性が認識されていたか否かにかかわらず,人の健康に係る被害を生ずるおそれのある一切の物質が含まれていないことが,特に予定されていたとみるべき事情もうかがわれない。そうすると,本件売買契約締結当時の取引観念上,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるとは認識されていなかったふっ素について,本件売買契約の当事者間において,それが人の健康を損なう限度を超えて本件土地の土壌に含まれていないことが予定されていたものとみることはできず,本件土地の土壌に溶出量基準値及び含有量基準値のいずれをも超えるふっ素が含まれていたとしても,そのことは,民法570条にいう瑕疵には当たらないというべきである。
5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
第2 上告人の民訴法260条2項の裁判を求める申立てについて
 上告人が上記申立ての理由として主張する事実関係は,別紙「仮執行の原状回復及び損害賠償を命ずる裁判の申立書」(写し)記載のとおりであり,被上告人は,これを争わない。上記事実関係によれば,上告人は,平成20年11月26日,被上告人に対し,原判決に付された仮執行の宣言に基づき4億5962万1587円を給付したものというべきである。そして,原判決中上告人敗訴部分が破棄を免れないことは前記説示のとおりであるから,原判決に付された仮執行の宣言はその効力を失うことになる。そうすると,被上告人に対し,4億5962万1587円及びこれに対する給付の日の翌日である平成20年11月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める上告人の申立ては,正当として認容すべきである。
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