2011年3月9日水曜日

解雇(リストラ)の有効性についての裁判例

今回は、不当解雇(リストラ)について判断している裁判例を紹介します(つづき)。 

(3)争いのない事実及び上記(2)に記載した事実によれば、以下の点を指摘することができる。
 すなわち、法は、継続雇用制度の導入による高年齢者の安定した雇用の確保の促進等を目的とし、事業者が高年齢者の意欲及び能力に応じた雇用の機会の確保等に努めることを規定し、これを受けて、法附則は、事業者が具体的に定年の引上げや継続雇用制度の導入等の必要な措置を講ずることに努めることを規定していることによれば、法は、事業主に対して、高年齢者の安定的な雇用確保のため、65歳までの雇用確保措置の導入等を義務づけているものといえる。また、雇用確保措置の一つとしての継続雇用制度(法9条1項2号)の導入に当たっては、各企業の実情に応じて労使双方の工夫による柔軟な対応が取れるように、労使協定によって、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、継続雇用制度の措置を講じたものとみなす(法9条2項)とされており、翻って、かかる労使協定がない場合には、原則として、希望者全員を対象とする制度の導入が求められているものと解される。
 この点、被告と本件組合との間においては、被告における継続雇用制度の制定を巡って労使交渉が重ねられ、上記(2)エ記載の内容の協定書が取り交わされる一方、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定める労使協定は結ばれていないものの、被告においては、上記のとおりの労使交渉を経て、再雇用の条件等を定めた再雇用就業規則が制定され、同規則の中で再雇用の条件として3条所定の各要件が定められるに至った。そして、同規則の実施後に再雇用の対象となった定年退職者のうち、原告以外に再雇用を拒否された者はいないことがうかがわれる。
 以上のとおり検討した法の趣旨、再雇用就業規則制定の経過及びその運用状況等にかんがみれば、同規則3条所定の要件を満たす定年退職者は、被告との間で、同規則所定の取扱い及び条件に応じた再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するものと解するのが相当であり、同規則3条所定の要件を満たす定年退職者が再雇用を希望したにもかかわらず、同定年退職者に対して再雇用拒否の意思表示をするのは、解雇権濫用法理の類推適用によって無効になるというべきであるから、当該定年退職者と被告との間においては、同定年退職者の再雇用契約の申込みに基づき、再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。
2 争点(2)(本件再雇用拒否が労働契約法16条所定の解雇権濫用法理の類推適用によって無効となるか)について
(1)再雇用就業規則3条(2)の「再雇用者として通常勤務できる意欲と能力がある者」という要件のうちの「能力」について、原告は、その職務を遂行する上で備えるべき身体的・技術的能力を意味し、協調性や規律性等の情意(勤務態度)を強調すべきではないと主張するのに対し、被告は、身体的・技術的能力にとどまらず、協調性や規律性等の情意(勤務態度)も重要な要素として含まれると主張するので、まずは、「能力」要件の解釈の在り方について検討しておく。
 この点、上記1で検討したとおり、再雇用就業規則は、法の趣旨を踏まえて、定年退職者の意欲及び能力に応じた雇用の機会の確保のために、被告と本件組合との労使交渉の末に制定されたものであり、被告を定年退職した職員のうち再雇用を希望する者について、その取扱い、条件等を定めるものである(1条)ところ、同規則3条は、再雇用の条件として、(1)において当該定年退職者の健康状態及び同規則が別に定める勤務日、勤務時間(8条)の下での勤務が可能であることを掲げ、(2)において通常勤務できる意欲と能力があることを掲げている。かかる再雇用就業規則の制定経過、目的、再雇用の条件を定めた同規則3条(1)、(2)の各要件の配置及び文言からすると、定年退職者が再雇用されるための条件としての「能力」とは、その中心的なものとして、当該職務を遂行する上で備えるべき身体的・技術的能力を意味するものと解するのが相当であるが、当該職務そのものの内容や性質のほか、職務遂行に必要な環境及び人間関係等に照らして、当該職務を遂行する上で備えるべき身体的・技術的能力を計るに当たって、協調性や規律性等の情意(勤務態度)についてもその要素として考慮しなければならない場合もあるものと解される。
 これを本件について見るに、再雇用就業規則6条は、「再雇用者の職場および職務は、本人の希望・知識・技能・経歴・適性・健康状況ならびに出版界の要因・雇用状況等を総合的に判断して、出版会が決定する」と規定しているところ、原告は、被告に在職中、一貫して編集局に所属し、社会学、宗教学、教育学、文化人類学等の社会科学・人文科学の分野の学術書・教科書又は教養書の編集に携わっていたのであるから、特段の事情のない限り、再雇用後も同様に編集者としての職務を担当する可能性が高いといえる。そして、被告のような出版社の従業員としての編集者の職務については、その性質上、編集対象の書籍等の執筆者等との連絡・調整に加えて、当該出版社の出版方針等を理解し、上司の指示命令に従った編集作業を遂行することが求められるのは公知の事実であるから、その職務遂行上備えるべき身体的・技術的能力を測るに当たっては、再雇用就業規則3条(2)所定の「能力」の解釈の中で、協調性や規律性等の情意(勤務態度)についても,一定程度考慮せざるを得ないものと解される。具体的には、上記身体的・技術的能力を減殺する程度の協調性又は規律性の欠如等が認められるか否かという枠組みのなかで検討すべきである。
なお、不当解雇(リストラ)についてお悩みの方は、専門家である不当解雇(リストラ)を扱う弁護士に相談してください。また、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料金やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返却請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事弁護を要する刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。