2009年9月30日水曜日

残業代請求

今回は、サービス残業の残業代請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。

3 そして、原告是村は本人尋問において、平成二年七月二五日の直後ころ、原告是村及び同堀田と土方本部長や星野常務との間で交渉をもったが、被告側は、原告らの未払割増賃金(残業代)問題については、重大な問題であり,検討するため、もう少し待ってもらいたい旨述べたこと、これ以後も原告是村と土方本部長の間で数回交渉をもったが、土方本部長は、前同様、検討中だからもう少し待って欲しい旨述べていたこと、平成三年一月一一日、原告是村と土方本部長や星野常務との間で交渉をもち、原告是村は、被告に対し、原告らの未払割増賃金(残業代)の支払いを求めたが、被告側の回答は前同様であったこと、同月一八日は、原告堀田も加わり、交渉がもたれたが、被告は法的に認められるものについては支払う意思がある旨及び法的に訴えるということはしないで話し合いで解決したい旨述べたこと、同月一九日は、原告是村と土方本部長との間で電話で交渉がなされたが、前日同様の内容であったこと、その翌週にも交渉をもったが、その際、被告は、前記の同月二三日付けの通知内容とは異なり、同月一八日の交渉内容と同様のことを述べたこと、同年五月三〇日、都労委における第一回斡旋期日において、被告から、都労委による斡旋に原告らの過去の未払割増賃金(残業代)問題も含むよう申入れがあったが、訴外組合はこれを拒否したこと、同年六月以降、原告是村は、被告との間で交渉をもったが、被告は、依然、検討中だからもう少し待って欲しいとの回答であったこと、同年七月四日、原告是村及び同堀田と土方本部長及び星野常務との間で交渉をもったが、被告は、検討中だからもう少し待って欲しい旨及びなんとか穏便に労使交渉で解決したい旨述べたこと、同月五日、被告は、原告らの請求について、現時点においては、支払うつもりがないとの回答をしたこと等を述べる。
 他方、土方証人は、原告らのうち原告内田を除く一八名の平成二年七月一九日付けの通知書を検討したが、その結果は、原告らの主張とは異なり、営業部及び第四作業部に所属する従業員については時間管理が不可能かつ困難なので時間外労働(残業)等の概念が成立しえず、したがって、割増賃金(残業代)の不支給ということはないので労基法違反が成立することもないと判断したこと、これについて、同年七月ないし八月の役員会で検討したところ、出席者の意見はこの問題については影響が大きいだろうということであったこと、原告らの被告に対する同年八月三一日付け通知書についても同年七月一九日付け通知書と同様の判断をしたこと、被告の原告らに対する同年一二月二七日付け通知書は、原告らに時間外割増賃金(残業代)等が存在しないので、その根拠ないし金額について原告らに問い合わせたものであること、平成三年一月一八日に四名で交渉をもったことはあり、その冒頭に原告らの未払割増賃金(残業代)問題の話が出、土方本部長は、これについては弁護士を通じて可及的速やかに交渉したいと述べたこと及びこの日の交渉の中心は輪転機の撤去問題であり、これについては訴外組合の理解を得て合意したこと、同月一九日、原告是村は土方本部長宅に電話をかけて未払割増賃金(残業代)の話をし、払わないと訴訟を提起する旨述べたこと等を証言する。 
 右の土方証言によれば、被告は、平成二年七月一九日付け通知書により原告ら(原告内田を除く)が請求した未払割増賃金(残業代)問題につき、当初からその請求権の存在を明確に否定しており、その後の原告ら等との交渉においても右の態度を明確にしていたという趣旨ととれなくもなく、仮にそうだとすると、原告らの本件請求債権に関し、消滅時効が成立している可能性がある。
 しかしながら、土方証言中の右通知書の検討に関する部分は、その時期が明らかでないところ、前記役員会における出席者の意見、同年一二月二七日付け通知書中の「鋭意検討中です」という文言、平成三年一月一八日の土方本部長の発言内容、同月一九日の原告是村の発言内容、前記(一二)、(一三)の都労委における被告の態度等に照らすと、右検討・判断は相当後の時期になされたものか、あるいは、一応の判断はしたものの、最終的な対応を決するまでには至っていなかったのではないかと考えられ、したがって、被告が、平成二年七月二五日に、原告らの請求に対し、検討のためのしばらくの猶予を求めた後も、法的に認められるものは支払う、交渉により解決したい等と述べ、原告らの本件請求権の存否についてあいまいな態度を継続していたという原告是村の供述は概略において信用することができる。土方証言中のこの部分に関する証言で原告是村の供述に反する部分は信用し難い。
4 ところで、債務者が債権者の請求に対し、検討のための時間的猶予を求め、債権者がこれに応じてその回答を待つことが権利行使の懈怠とは評価できないような場合においては、債権者の催告の効力はこれにつき債務者より何らかの回答があるまで存続する、すなわち、民法一五三条所定の六か月の期間は、債務者から何らかの回答があるまで進行しないと解すべきである(最判昭和四三年二月九日民集二二巻二号一二二頁)。
 これを本件についてみるに、被告は、原告らの催告に対して、検討のための時間的猶予を求め、その後の原告らの請求に対しても基本的に同様の態度をとり続け、結局、平成三年七月五日に至って支払拒絶の意思を明確にしたので、原告らは同年一二月二〇日に本件提訴に至ったという事実経過や原告らの多くは当時被告の従業員であり、原告らの中心的立場にある原告是村は現在においても被告の従業員であること、原告らの、訴訟により解決する旨の申入れに対し、被告は交渉による解決を強く望んだので、原告らもこれを受け入れたこと(原告是村尋問)、本件は、時効制度の趣旨の中でも債権者の権利行使懈怠という趣旨がより重視される二年間の短期消滅時効(労働基準法一一五条)が問題となっていること等に鑑みれば、原告らの本件請求債権については、前記六か月の期間は、信義則上、平成二年七月一九日(原告内田を除く。)ないし同年八月三一日(原告内田)から進行すると解すべきではなく、被告からの回答があった平成三年七月五日から進行すると解すべきである。
 そして、本件において、原告らは、被告の回答があった平成三年七月五日から六か月以内である同年一二月二〇日に本訴を提起したのであるから、本件割増賃金(残業代)請求権の消滅時効は本件催告によって中断されたものと解するのが相当である(なお、原告内田が被告に催告をしたのは、他の原告とは異なり、平成二年八月三一日であるが、本件における原告内田の請求債権の弁済期は、いずれも同日の二年前である昭和六三年八月三一日より後である同年九月二四日以降に到来しているから、原告内田の本件各請求債権も時効消滅していないという点で他の原告と同様である。)。
五 遅延損害金請求権の有無について
 前記第三、二で述べたとおり、原告らは本件未払割増賃金(残業代)請求権を有しており、前記第三、三及び四で述べたとおり、右請求権につき、原・被告間で争わない旨の合意がなされたとは認められず、かつ、右請求権について消滅時効が成立したことも認められないから、原告らは被告に対し、それぞれ本件各未払割増賃金(残業代)請求権の合計額に対する弁済期の後である平成二年六月二六日以降支払済みに至るまで年六分の割合による遅延損害金請求権を有する。
六 被告の付加金支払義務の有無について
 前記第三、二で述べたとおり、原告らは、本件未払割増賃金(残業代)請求権を有しているところ、原告内田、同川田、同小高、同小林、同小森、同斉藤、同白井、同西村、同野田、同堀田、
同茂木、同榎本、同金子、同庄司、同田邊、同豊島及び同西脇は、支払日が平成元年一二月二五日以降の賃金と同額の付加金を請求し、右請求は相当と認められるので、裁判所は、被告に対し、別表1未払賃金等計算表の「付加金の請求」欄の合計欄に記載の各金額の支払いを命じることとする。
 なお、付加金の性質に鑑み、仮執行宣言は付さないのが相当であると解され、認容金額中の賃金部分についてのみ仮執行宣言を付することとする。
なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。顧問弁護士を検討中の企業の方は、弁護士によって顧問弁護士料金やサービス内容が異なりますので、よく比較することをお勧めします。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談・慰謝料の交渉オフィスや店舗の敷金返却請求(原状回復義務)多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題刑事事件などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。