2009年6月11日木曜日

残業代請求

今回は、残業代請求に関する判例を紹介します(つづき)。 

二 原告らの時間外労働(残業)等及び固定残業給を超える割増賃金(残業代)の有無について
1 争いのない事実及び証拠(〈証拠略〉)によると、原告ら被告従業員は、出社・退社時刻をタイムカードに打刻しており、この記録は、個人別出勤表に記載されていたこと、そして、同表によると、午後六時を起算点とする時間外労働(残業)時間数及び深夜労働(残業)時間数は、別表1〈略、以下同じ〉未払賃金等計算表1ないし19の「時間外労働(残業)時間数」欄、「午後一〇時以降の労働時間数」欄に各記載のとおりであることが認められる。
2 ところで、一般に、タイムカードの記載は、従業員の出社・退社時刻を明らかにするものであって、出社・退社時刻は就労の始期・終期とは一致しないから、本件原告らの時間外労働(残業)等の時間数をタイムカードの記載を転載した個人別出勤表に基づいて認定することが許されるかが問題となる。
 証拠(〈証拠・人証略〉)及び弁論の全趣旨によると、被告においては、管理職等を除く従業員は、出・退勤時にタイムカードを打刻することが義務付けられており、被告作成の個人別出勤表の「始業時間」欄、「終業時間」欄、「所定内時間」欄、「所定外時間」欄、「実働時間」欄の各記載はいずれもタイムカードの記録を基に記載されていること、被告は、タイムカードの記録に基づいて、従業員の遅刻等による一時金からの賃金カットをするなど、タイムカードの記録により従業員の労働時間を把握していたこと、本件固定残業制度の適用を受けていなかった従業員の時間外労働(残業)等の割増賃金(残業代)の計算は、営業部員を含めて、タイムカードの記載を基礎になされていたと考えられること、本件固定残業制度が廃止された後の時間外労働(残業)等の計算は、タイムカードの記録をも基礎にしてなされていること、出社時刻から退社時刻までの時間は、一般に実労働時間より長く、両者には誤差があるが、被告における時間外労働(残業)等の時間数の計算方法は、一五分ごとに〇・二五時間ずつ加算される方法をとっているため、出社してから就労を開始するまでの準備作業や終業して退社するまでの後片付けに相当の時間を要する行為(着替えや入浴等)を通常必要とするような場合は格別、そうでない場合は右誤差の相当部分は解消されることが認められる。
 右認定事実からすると、タイムカードを打刻すべき時刻に関して労使間で特段の取決めのない本件においては、タイムカードに記録された出社時刻から退社時刻までの時間をもって実労働時間と推定すべきである。
3 これに対して、被告は、原告らはタイムカードに打刻した始発時刻と終業時刻との間の賃金計算期間中であるのに、公私混同の行動をとったり、あるいは業務を行うことなく、時間を徒過するなどしており、これらの時間については、賃金は発生しないと主張する。

 たしかに、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、いずれも前記賃金計算期間中であるにもかかわらず、原告豊島は野球部の部室で休んでいたことが数回あったし、同内田、同川田、同小林、同小森、同斉藤、同野田、同堀田、同茂木、同榎本、同金子、同田邊は、食事をしたり、ビールを飲んでいたことがあったし、同小高は、本を読んだり、寝たりしていたことがあったし、同西村は、組合の仕事をしていたことがあったし、同庄司、同西脇は、テレビを見たり、入浴していたことがあったことが認められる。さらに、(人証略)は、原告是村及び同三島は、タイムカードの記載によれば、平成二年一月二二日は二人とも長時間の時間外労働(残業)をしたということになっているが、両名に対して、残業の指示をしたことはなく、両名は組合事務所で何かしていたのではないかと考えられ、また、原告是村、同三島、同西村及び同堀田は、同年三月九日に同様に、長時間の時間外労働(残業)をしたということになっているが、この両名にも残業を指示したことはないので、やはり、組合事務所で何かしていたのではないかと考えられるなどと証言する。
 しかしながら、いずれの場合もタイムカードに打刻されている始業時刻と終業時刻の間で原告らが労務を提供しなかった日時ないし時間の長短が特定しておらず、タイムカードに打刻されている始業時刻から終業時刻までの時間をもって原告らの実労働時間と考えるべきことにかわりはなく、この点に関する被告の主張は失当である。
4 被告は、本件固定残業制度については、原告らは同制度によって生じる不利益を受忍する意思を有しており、あるいは、労働協約上の根拠を有しており、あるいは、労使慣行となっていたから、原・被告間において労働契約の内容になっていたと主張する。
 たしかに、本件固定残業制度下にあっての本件固定残業給は、時間外労働(残業)等の割増賃金(残業代)として支払われていたのであって、この限りにおいて、同制度は被告と適用対象従業員との間で労働契約の内容となっていたということはできるが、現実の時間外労働(残業)等により発生する割増賃金(残業代)が固定残業給を超えた場合に、その差額を放棄する特約まで労働契約の内容になっていたと認めるに足りる証拠はなく、仮にそうであったとしても右の特約は労働基準法一三条に反し無効であり、この理は労働協約であれ、労使慣行であれ異ならない。

 そして、現実の労働時間が固定残業時間数を超えるか否かは、原・被告間の賃金支払形態が月給制である以上、一か月単位で判断すべきものである。
 被告は、本件請求期間全体を通じると、原告らが主張するほど多額の未払割増賃金(残業代)はない旨主張するが、右の理由により採用しえない。
5 また、被告は、本件固定残業制度の適用対象者は、定められた固定残業時間の範囲内で時間外労働(残業)等を行うべきであり、かつ、被告が原告らに対し、固定残業時間を超えて時間外労働(残業)等を命じた事実はないとも主張する。
 しかし、前記のとおり、原告らの所定時間外の労務提供が固定残業時間を超えてなされたことがあったこと自体は明らかであり、証拠(〈人証略〉)及び弁論の全趣旨によれば、原告らが時間外労働(残業)等をすることにつき、被告の明示又は黙示の指示があったことも認められるので、右主張も失当である。
6 ところで、原告らは、給与支給明細書(1)中の「超勤単価」欄によれば、原告是村、
同川田、同小高、同西村、同三島、同庄司、同西脇の平成元年三月二一日以降同年五月二〇日までの賃金の時間単価は、それ以前と変更がないが、実際は、同年六月二四日支給の賃金において、同年三月二一日に遡って、別表2未払賃金等計算表1、3、4、9、12、16、19の「賃金の時間単価」欄記載のとおり、時間単価が変更されたので、右の各原告の同年六月二四日付けの給与支払(ママ)明細書(1)中の支給額欄中の「その他」欄の記載は、改定後の賃金が過去二か月に遡及して適用されたために生じた改定前の賃金により計算された過去二か月の支給額との差額分として支給された金額であると主張する。

 そこで、証拠(〈証拠略〉)に基づき、同年六月二四日付けの同明細書中の支給額欄中の「その他」欄の記載と改定前後の賃金の差額の二か月分とが一致するか否か検討すると以下のとおりとなる(金額に変更がない手当等及び交通費については省略する。)。
なお、企業の担当者で、残業代請求についてご相談があれば、顧問弁護士にご確認ください。そのほか、個人の方で、不当解雇保険会社との交通事故の示談交渉刑事事件多重債務(借金)の返済遺言・相続の問題オフィスや店舗の敷金返却(原状回復)などでお困りの方は、弁護士にご相談ください。